不動産相続が遺留分侵害となる場合
遺産が不動産以外にほとんどないという場合も,遺留分に関する争いが生じる可能性が高いケースの1つです。
このような場合に,起こりうるトラブルとそのようなトラブルを回避するための方法について,ご説明いたします。
1.事例の説明
これから,遺産が不動産以外にはほとんどない場合に,よくあるトラブルについて説明いたしますが,具体的な事例に沿って説明をするほうが分かりやすいものと思われます。
そこで,このページで説明している内容は,以下のような家族構成,財産構成の家族の話であるとして,お読みください。
(事例の詳細)
家族構成
夫(太郎),妻(華子),長男(和夫),長女(和子)の4人家族
子ども2人は全員結婚しており,夫太郎と妻華子,長男和夫夫妻が夫太郎名義の大阪の自宅不動産で同居しており,長男夫婦が両親の面倒をみている。長女和子は結婚して,東京で暮らしている。
夫太郎の財産構成
相続財産合計額 3500万円
(内訳) 積極財産合計 4500万円
不動産(自宅の土地建物)
評価額4000万円
預金 500万円の定期預金 1口
負債合計 1000万円
自宅住宅ローン残額 1000万円
・上記の状況の中で,夫太郎が死亡し,相続が発生した。
・夫太郎は遺言を残していなかった。
以上の内容を前提として,以下の話を進めていきます。
なお,法定相続分で相続した場合,
長男和夫,長女和子は各々4分の1の875万円(積極財産1125万円-債務250万円)
を相続することになります。
また,相続人各自の個別的遺留分の金額は,妻華子が4分の1で875万円,長男和夫,長女和子は各々8分の1で437万5千円となります。
2.どういうトラブルが起こることが考えられますか?
このケースでは,遺言がありませんので,残った相続人間で,遺産分割協議をしなければなりません。
しかしながら,本事例では,遺産の85%程度が不動産で構成されていますので,不動産を売却して売却代金を分ける方法や相続人各自の持分で共有するような方法でなければ,原則として,1人に遺産が集中することになってしまいます。
遺産分割協議の中で,不動産を共有するという選択肢を取ることができれば,不動産を共有し,預金を分割することで,相続人間に不平等がないような分割方法が可能です。
また,不動産を売却するという選択肢を取ることができれば,不動産を売却し,その売却代金と預金を分割することで,同じく相続人間に不平等がないような分割方法が可能です。
しかしながら,そのような選択肢を取ることができなければ,不動産を取得する相続人が,他の相続人が納得できるだけの代償金(又は代償財産)の提供することができなければ,遺産分割協議が成立しない可能性が高くなります。
また,この場合に必要となる代償金は,通常であれば,法定相続分相当ということになる可能性が高く,遺留分侵害相当額では済まないものであると思っておいてください。
さらに,遺産分割協議の中で,代償金(又は代償財産)の金額に合意ができなければ,遺産分割調停においても合意ができない可能性は否定できず,最終的に遺産分割の審判によらざるを得ないことになりかねません。
しかしながら,遺産分割審判になると,共有することになるか,競売して売却代金を法定相続分に応じて取得するかという流れになりかねません。
そのため,解決までに時間がかかる上に,思うほどの金額を取得できない可能性が高くなります。
さらに,相続の関係で長期間争うことになってしまうと,どうしても感情的な対立も昂じてしまい,審判がなされた後に,家族(相続人)間でしこりが残ってしまう可能性が高くなってしまいます。
つまり,遺産が不動産以外にほとんどない場合には,不動産を売却せず,相続人の誰かが相続する方向で考えられるのであれば,生前に遺留分侵害額請求への対策をしておくことは必須であるといえます。
3.どのような対策を取ればよいでしょうか?
(1)相続が発生してしまっている場合
自宅を売却することが可能であるのならば,自宅を売却して売却代金を相続人全員が合意した金額で分割して取得する方法が考えられます。
しかしながら,自宅には妻と長男夫婦が引き続き住み続けるということになった場合には,原則としては,不動産を取得する妻か長男が,代償金(又は代償財産)の手当をしなければならないことになります。
その場合に,まず最初にやるべきこととしては,不動産の評価を明らかにすることです。
遺産分割の不動産の評価に関しては,時価で評価するのが原則ですが,不動産を取得し代償金を支払う相続人は少しでも安い評価を求めますし,一方で不動産を取得する代わりに代償金を取得する相続人は少しでも高い評価を求めます。
そのため,複数の不動産販売業者から見積もりを取る等して,相当の評価額を算定し,相続人全員での合意形成ができるように努力する必要があります。
そのうえで,不動産を取得する相続人は,取得しない相続人に対して,何らかの代償をすることで,遺産分割協議を成立させることを目指すことになりますが,不動産を取得する相続人が代償金の手当をできるだけの資金的な余裕がない場合には,以下のような対策を取ることになります。
1つめの方法としては,自宅不動産を担保にして代償金の資金を借り入れることが考えられます。
もっとも,このケースでは,住宅ローンの残額が残っている状況ですので,どの程度借入ができるかは金融機関との交渉次第という結果になるため,代償金全部を賄えるだけの借入ができるかどうかについては,確実といえるものではありません。
次に,長男和夫が自宅不動産を単独取得し,妻華子が引き続き自宅不動産で長男和夫夫婦と同居する場合であれば,令和元(2019)年7月1日より施行された改正相続法で新たに定められた,配偶者居住権を利用する方法が考えられます。
遺産分割協議の中で,妻華子の配偶者居住権付の不動産を長男が相続するという内容の遺産分割協議が成立するのであれば,配偶者居住権の評価額にもよりますが,妻華子の相続分については,問題は生じないような解決が図れます。
ただし,長女和子との話に関しては,同人が納得できるだけの条件を提示しなければ,遺産分割協議に応じてもらえない可能性が残りますので,長女和子に対する代償金の手当が必要となる可能性が高いことには注意が必要です。
最後の方法としては,妻華子,長男和夫,長女和子で不動産を共有する内容での遺産分割協議を成立させることです。
共有した不動産は,共有者全員の合意がなければ売却等の処分ができませんので,あまりお勧めする方法ではありませんが,今後,不動産を売却する際に,相続人全員に持分相当の金額を取得させることができることにつながります。
そこで,どうしても不動産の単独相続では話し合いがつかないという場合には,考えられる方法の1つではあります。
このように,遺産のほとんどが不動産であるという場合には,生前に何らかの遺留分対策をしておくべきケースですので,この後,説明いたします。
(2)相続が発生していない場合
では,相続が発生していない場合,すなわち,夫太郎が生前のうちに取れる対策方法はどのようなものがあるでしょうか。
まずは,遺言を活用することです。
例えば,遺言で,自宅を長男1人に相続させるとしたうえで,遺言の付言事項の中で,このような内容の遺言を作成した経緯や理由を説明し,遺留分侵害額請求権を行使しないで欲しい旨を明らかにしておく方法です。
もっとも,付言事項に法的効力はありませんので,夫太郎からのお願いにすぎませんが,仲のよい親子関係であれば,付言事項の内容に従ってもらえる可能性は十分にあります。
又は,遺言で,遺留分を侵害しない内容を定めておくことも方法の1つとして考えられます。
このケースで,妻と長男夫婦は同居する予定で,なおかつ,妻と長男夫婦との間で揉める可能性がほとんどないという場合であれば,妻と長男間で不動産を共有する(又は,長男が単独で取得する)ようにし,預金については,長女に対して遺留分相当の金額を相続させるという遺言を残しておけば,長女から遺留分侵害額請求権を行使されることは無くなりますので,このような遺言ができれば,遺留分で争うことになる心配は無くなります。
次に,不動産を取得する相続人を受取人とする生命保険を活用する方法が考えられます。
遺留分侵害額請求がなされた際の支払資金として,生命保険を用意しておくのです。
このケースでは,預金の500万円を,受取人を長男とする一時払終身保険に代えておき,遺言で不動産を長男に相続させるようにしておくことで,少なくとも長女からの遺留分侵害額請求権を行使に対しては対応が可能となります。
その他,遺留分侵害額請求権を行使されないようにするための方法としては,妻華子が引き続き自宅不動産で長男和夫夫婦と同居するのであれば,遺産分割協議の方法の1つとして説明した配偶者居住権を遺言によって定めておく方法が考えられます。
配偶者居住権は施行されたばかりの制度ですので,配偶者居住権の評価をどの程度に見積もるかについては,いわゆる相場というものがなく,当然のことながら,判例等の蓄積もありません。
計算方法は何通りか公表されていますが,現時点でこの方法で計算しますと確定したものでもありません。
それでも,配偶者居住権を認めて遺産分割協議をするのであれば,その評価額が妻華子の相続による取得分となりますので,少なくとも妻華子から遺留分侵害額請求権を行使されることを心配する必要がほとんどなくなります。
配偶者居住権について,詳しくは,【生前にできる遺留分対策を相談したい】をご参照ください。
以上の方法を単独で,又は組み合わせることによって,遺留分対策をしておくべきものです。
4.遺留分のことでトラブルが発生しないかご心配になられたのでしたら,相続に強い大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイに
遺産が不動産以外にほとんどないような場合には,遺留分侵害額請求を行使されないようにするための事前の対策を取っておかないと,遺留分を巡る争いが生じたり,遺産分割協議で揉めてしまい,解決までに時間がかかってしまいかねません。
遺産のほとんどが不動産のため,遺留分のことで将来トラブルが発生しないかを心配されるのであれば,相続に強い大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。