生前贈与が遺留分侵害となる場合
被相続人が多額の生前贈与をしていたという場合も,遺留分に関する争いが生じる可能性が高いケースの1つです。
このような場合に,起こりうるトラブルとそのようなトラブルを回避するための方法について,ご説明いたします。
1.事例の説明
これから,多額の生前贈与がなされていた場合に,よくあるトラブルについて説明いたしますが,具体的な事例に沿って説明をするほうが分かりやすいものと思われます。
そこで,このページで説明している内容は,以下のような家族構成,財産構成の家族の話であるとして,お読みください。
(事例の詳細)
家族構成
夫(太郎),妻(華子),長男(和夫),長女(和子)の4人家族
子ども2人は全員結婚しており,夫太郎と妻華子,長男和夫夫妻が夫太郎名義の大阪の自宅不動産で同居しており,長男夫婦が両親の面倒をみている。長女和子は結婚して,東京で暮らしている。
夫太郎の財産構成
相続財産合計額 3500万円
(内訳) 積極財産合計 4500万円
不動産(自宅の土地建物)
評価額4000万円
預金 500万円の定期預金 1口
負債合計 1000万円
自宅住宅ローン残額 1000万円
・上記の状況の中で,夫太郎が死亡し,相続が発生した。
・夫太郎は公正証書遺言を残しており,「自宅不動産と住宅ローン残額を長男和夫に相続させる。預金は妻華子に200万円,長男和夫に200万円,長女和子に100万円を各々相続させる。」との内容であったとします。
・また,銀行の取引履歴を調査したところ,夫太郎は,死亡前8年前に長男和夫に事業資金として500万円を贈与し,死亡前5年前には長女和子に結婚の際の支度金として1000万円を贈与していたことが判明したものとします。
この2件の贈与に関しては,特別受益に該当し,遺言には持戻しの免除を定める内容(相続の際に生前贈与を考慮しなくてよい,すなわち相続とは別に贈与したものとすることです。)はなかったとします。
以上の内容を前提として,以下の話を進めていきます。
なお,法定相続分で相続した場合,
長男和夫,長女和子は各々4分の1の875万円(積極財産1125万円 債務250万円)
を相続することになります。
2.どういうトラブルが起こることが考えられますか?
相続人に対する生前贈与に関しては,特別受益に該当するものについては,過去10年分については,遺留分算定の基礎として加算しなければなりません。
特別受益とは,相続人が被相続人から,生前に贈与を受ける等して,特別な利益を受けていることをいい,遺産を前渡ししてもらったものと同視できる贈与のことであると考えてもらうと分かりやすいかと思います。
このように,被相続人の生前に,特別受益に該当する多額の生前贈与が行われている場合,遺留分算定の基礎金額等に影響して,遺留分侵害額が異なってきますので,生前贈与の内容と金額をきちんと調べたうえで,話を進めなければならないことになります。
また,遺言で特別受益の持戻しの免除がされていなければ,特別受益の金額を含めて,相続分を計算し直さなければなりません。
このケースでは,いずれの贈与も夫太郎の死亡前10年以内の特別受益に該当する贈与ですので,遺留分算定の基礎として加算することになり,遺留分算定の基礎財産額は3500万円+500万円+1000万円で合計5000万円となります。
そのため,このケースにおける個別的遺留分の金額は,妻華子が1250万円,長男和夫と長女和子は625万円となり,生前贈与がないときと比較すると高くなります。
一方で,相続による相続人各自の取得分は,遺言で特別受益の持戻しの免除がなされていないため,特別受益の持戻し分を加算して再計算すると,妻華子が200万円,長男和夫が3700万円(4000万円+200万円+500万円-1000万円),長女和子が1100万円(100万円+1000万円)となります。
以上より,妻華子に関しては個別的遺留分1250万円のうち1050万円が侵害されていますので,その分の遺留分侵害額請求権を行使することが可能ですが,長女和子に関しては,遺留分の侵害はありません。
このように,被相続人の生前に多額の生前贈与がなされていた場合には,遺留分の計算が異なってきますので,多額の生前贈与を受けていた相続人に関しては,遺留分の侵害がなされていない可能性が高くなります。
とはいうものの,長女和子に関しては,3500万円の遺産から,相続の際には100万円しかもらえないので,遺留分が侵害されていると確実に思うでしょう。
しかしながら,このケースのように特別受益となる生前贈与を持ち戻すと,遺留分は侵害されていない結果となり,何ら請求はできません。
そこで,不満が生じる可能性が高いことは分かっていただけることと思います。
なお,このケースでは,子ども2名への贈与を単純に特別受益と認定しました。
しかしながら,実際の相続のケースでは,生前贈与に関して,自分への資金提供は贈与ではなく借入又は投資である,贈与の一部だけしか特別受益には該当しない等,特別受益の金額を少しでも減額しようと様々な主張がなされることになり,特別受益に該当するかどうかの認定に関しては一筋縄ではいかないのが現実なのです。
そのため,遺留分侵害額請求がなされると,相続人各自への全ての贈与に関して,特別受益に該当するかどうか正反対の主張が繰り広げられ続けることになりかねませんので,訴訟が長期化する可能性も高くなります。
さらには,妻華子と長女和子は,住宅ローンの残額について法定相続分相当額の請求が債権者からなされた場合には,後で,長男和夫に対して求償できるとしても,一旦は債権者に支払をしなければならなくなりますので,そのことに関しての不満が出てくる可能性も否定できません。
この点に関しては,1人に全財産を相続させる遺言をする場合と同じトラブルが生じる恐れがあります。
3.どのような対策を取ればよいでしょうか?
この場合も,基本的には「1人に全財産を相続させる遺言をする場合」と同様の対策を取ることになります。
すなわち,遺言の有効性を争われることに対する対策と遺留分侵害額請求権を行使されることに対する対策が必要となります。
詳しくは【全財産を相続させる遺言を巡る争い】をご参照ください。
それに加えて,特別受益の内容を遺言書の付言事項に記載するか特別受益の一覧を別途作成する等して,自分が生前に行った贈与が相続人に対する特別受益に該当するかどうかを分るようにしておくようにすべきです。
被相続人の認識として,何が特別受益に該当するものとして贈与したかどうかを,相続人全員が確認できるようにしておくことで,特別受益に該当する贈与に関しての争いは軽減されることが期待できます。
詳しくは,【生前にできる遺留分対策を相談したい】をご参照ください。
4.遺留分のことでトラブルが発生しないかご心配になられたのでしたら,相続に強い大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイに
多額の生前贈与がなされている場合には,遺留分侵害額請求を行使されないようにするための事前の対策を取っておかないと,遺留分を巡る争いが生じたり,遺産分割協議で揉めてしまい,解決までに時間がかかってしまいかねません。
多額の生前贈与をなされているため,遺留分のことで将来トラブルが発生しないかを心配されるのであれば,相続に強い大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。