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生前にできる遺留分対策を相談したい

相続人には,法律上,遺言でも侵害することができない遺留分という権利が認められています。

しかしながら,被相続人(遺言者)は,遺言で自分の思い通りに自分の遺産を分割することを指定できますし,遺留分を侵害する遺言であっても,遺言としての実質的な面としては有効です。
最終的に相続人から侵害された遺留分を請求されなければ,遺言の内容通りに遺産を取得させることができるのです。

ところで,遺留分を侵害するような内容の遺言をするということは,被相続人(遺言者)の方にとっては,自分の事業の承継や先祖代々の不動産の承継,自分との関わりあい等,様々な理由があって,一部の相続人を優遇せざるを得なかったという理由があったのではないでしょうか。

そのうえで,できることならば,残った相続人間で遺留分等の争いは避けてほしいというのが,正直な気持ちであると思われます。

そこで,遺留分侵害額請求権を行使されないように対策をしておきたいと考えることは,自然な流れであると思われます。

ここでは,遺留分侵害額請求権を行使されないような遺留分対策の方法について,ご説明いたします。

1.遺留分対策が必要な場合とは,どういう場合でしょうか?

生前に取れる遺留分対策とは,遺留分以下の財産しか相続できないことになる相続人が,相続開始後に遺留分侵害額請求権を行使しないように,又は行使されてもできるだけ揉めることの無いように,段取りをしておくことです。

具体的には,以下のような場合に,遺留分対策が必要となります。

  • ① 複数いる相続人の中で,1人又は一部の相続人のみに全財産又は財産の大部分を相続させたい場合
  • ② 相続人が存在するものの,相続人以外の第三者に全財産又は財産の大部分を遺贈したい場合
  • ③ 多額の財産を生前贈与した相手がいるため,相続財産が少なくなり,遺留分を侵害される相続人が生じる場合
  • ④ 相続させたくない相続人がいる場合
  • ⑤ 事業を継いでくれる相続人に,事業用財産を全て相続させたい場合

いずれの場合においても,一部の相続人又は受遺者に,相続財産の大部分を取得させることになるため,相続による取得分が0又は遺留分以下になる相続人が出てくることになります。

取得分が0であるか又は少ない相続人が,被相続人の意思を尊重して遺留分侵害額請求権を行使しないという選択をしてくれるのであれば,何ら問題はありません。

しかしながら,遺留分侵害額請求権は民法が認める正当な権利であり,遺留分を侵害された相続人が正当な権利行使をすることを止めることはできませんので,何らかの遺留分対策をしておくべきであるといえるのです。

2.遺留分対策の方法を教えてください。

(1)遺言の付言事項を活用する。

例えば1人の相続人に全財産を相続させる旨の遺言を作成する場合に,遺言の付言事項の中で,このような内容の遺言を作成した経緯や理由を説明し,遺留分侵害額請求権を行使しないで欲しい旨を明らかにしておく方法です。

その旨を記載した手紙等を別に作成したり,その旨のメッセージ動画を残しておくという方法も同じ趣旨の方法として,考えられます。

ただし,これは,あくまでも遺言者の希望やお願いを表明しているに過ぎず,何ら法的な効力はありません。
相続人も,付言事項の内容に従う必要はありませんので,確実な方法とはいえません。
しかしながら,相続人間で争いがないような場合には有効なこともあり,一番簡易で穏便な対策方法ではあります。

(2)遺留分侵害がないような遺言を作成する。

遺産分割が可能な財産(預貯金や株式等)が多くある場合には,一番多く財産を渡したい相続人以外の相続人に対しても,遺留分相当額の財産を相続させる旨の遺言を作成しておくことで,法定相続分以下ではあるものの,遺留分侵害にはならない形で財産を分けることができます。

ただし,この方法は,相続人の人数が少なく,かつ,ある程度財産総額に余裕がある場合でなければ難しい方法であることは確かですので,誰もが取りうる方法であるとはいえません。

とはいえ,相続人全員に最低限度の財産を取得させるという意味では,相続人全員に納得してもらえる可能性の高い方法であるともいえます。

なお,遺言時と相続発生時の相続財産の評価が大きく異なる場合に,再計算したところ,遺留分侵害が発生してしまう可能性があることには注意が必要です。

そのため,このような遺言をする場合には,遺言の中で遺留分侵害額請求をする際の方法(順番)を指定しておき,分割させたくない財産を守る手当をしておくほうが安全です。

また,遺産分割が可能な財産が多い場合には,遺留分侵害額請求方法の指定をすることで,遺留分侵害額請求権を行使されたとしても,分割されたくない財産を守ることができる可能性が高くなります。

それ以外に,残った配偶者を引き続き自宅に居住させたいという点を重視される場合には,令和元(2019)年7月1日より施行された改正相続法で新たに定められた,配偶者居住権を,遺言によって定めておく方法が考えられます。

ただし,配偶者居住権は施行されたばかりの制度ですので,配偶者居住権の評価をどの程度に見積もるかについては,いわゆる相場というものがなく,当然のことながら,判例等の蓄積もありません。

また,計算方法は何通りか公表されていますが,現時点でこの方法で計算しますと確定したものでもありません。

そのため,配偶者居住権を定めるのであれば,その評価額については,慎重に検討して定める必要がありますし,それだけの配慮をしたとしても,相続が発生した際に配偶者居住権の評価に不満を持つ相続人から,異議を出されて争いになる可能性があることも否定できません。

それでも,遺言で配偶者居住権を定めておけば,その評価額が配偶者の相続による取得分となりますので,少なくとも配偶者から遺留分侵害額請求権を行使される可能性は格段に低くなりますし,配偶者が高齢である場合等には,有効な方法の1つであるといえます。

(3)遺留分放棄をしてもらう。

遺留分権利者である相続人に,家庭裁判所に申し立てて許可を受けることで遺留分の放棄をしてもらう方法です。

相続放棄と違って,家庭裁判所の許可を受ければ,被相続人の生前であっても遺留分の放棄は可能です。
遺留分の放棄をしてもらえば,遺留分侵害額請求がなされることはありませんので,一番確実な方法であるといえます。

ただし,家庭裁判所からの遺留分の放棄の許可を受けるためには,遺留分放棄の申し出が

  • ① 本人の真意に基づいているか(強制等されていないか)
  • ② 遺留分の放棄が必要な理由や合理的な理由があるか
  • ③ 遺留分放棄に代わる見返りを受けているか

という要件を満たしていなければなりません。

特に,遺留分放棄に代わる見返りという点については,事実上,遺留分相当額の財産が生前贈与されていることが要求されています。
そのため,ある意味では,「遺留分侵害のない遺言を作成する」場合と同じように相当額の資金がないことには,見返りを提供できず放棄の許可を受けられない可能性が高くなってしまいます。

遺留分の放棄を求めるのであれば,最低限,遺留分相当額の資金を別途手当できる又はそれまでに生前贈与していることが前提となるものと思ってください。

また,遺留分を放棄してもらったとしても,その人が相続人であることには違いありませんので,遺留分を放棄した相続人には財産を取得させない遺言を作成しておかなければ,目的を達成することができなくなりますので,その点も併せて注意しなければなりません。

(4)生命保険を活用する。

現預金等を,財産を渡したい相続人を保険金受取人とする一時払終身保険(契約時に保険料を一括で支払う終身保険のことをいいます。)に代えてしまう方法です。
生命保険金は受取人固有の財産となり,遺産分割の対象となる相続財産ではなくなりますので,遺留分の基礎財産にも加算する必要がなくなります。

現預金が生命保険に代わり,相続財産でなくなることで,相続財産の金額は減少し,結果として,遺留分の金額自体も減少することになります。

また,財産を残したい相続人を受取人とすることで,遺留分侵害額請求をされたときの支払資金としても活用できますので,遺留分を請求された相続人の金銭的な負担を軽減できることにもつながります。

ただし,預金を一時払終身保険に代えてしまうと,その後に資金繰り等の関係で早期解約してしまったときには,払込保険料以下の解約返戻金しか戻ってこないリスクがあります。

そのうえ,それこそ,万一,保険会社が破綻した場合には,責任準備金の90%しか保証されないというリスクもありますので,預貯金のままで残しておくか,一時払終身保険に代えてしまうかについては,慎重に検討することが必要となります。

また,財産のほとんどを生命保険に代えてしまう等,生命保険金の金額が相続財産と比較して,著しく高額で,他の相続人との間で不公平が生じる場合に生命保険金が特別受益に該当すると判断される可能性がありますので,事前に専門家に相談する等して,問題ないことを確認しておく必要があることには注意が必要です。

さらには,相続税の計算においては,生命保険金は「みなし相続財産」とされ,相続税の対象となりますので,相続税の申告が必要となるかについても確認しておく必要があることにも注意が必要です。

(5)公正証書遺言を作成する。

以上のような,遺留分対策をしていたとしても,遺言の有効無効を争われることになって,万一,残した遺言が無効とされてしまえば,これまでの対策は全て水の泡となってしまいます。

ですから,しっかりしている間(=判断能力に何ら問題がない状態である間)に,公正証書遺言で遺言を作成してください。

遺言の有効無効が争われるケースで多いのは,遺言者が認知症等の影響で正常な判断能力(遺言能力)を有していない状態で遺言が作成され,遺言者の真意に基づくものではないと争われる場合です。

特に,一部の相続人を優遇したいと思われるのであれば,そのよう内容の遺言は,冷遇された相続人の側からすれば無効ではないかと疑われる可能性が極めて高いものであると言わざるを得ません。

しっかりしている間に,公正証書遺言を作成していただき,そのうえで,遺言作成をしたことを日記やメモに残しておいていただくようなことをしていただければ,あなたの真意に基づく遺言であることは,疑うことはできないでしょう。

それこそ,物忘れが酷くなってきたと思われるのであれば,すぐにでも対応すべきです。

もう少し後でも構わないだろうという安易な判断が,相続の際の争いの種を蒔くことになりかねないということをご理解しておいてください。

あなたの意思を,あなたの死後に反映させたいと思われるのであれば,遺言の有効無効を争われるようなことにならないよう,早め早めに手を打っておくべきです。

(6)トリッキーな方法は行わないことをお勧めします。

これ以外にも,

・配偶者と離婚すれば,一番割合の多い配偶者の遺留分が無くなり,遺留分侵害額請求の総額が減らせる。
・養子縁組をすることで,相続人の人数が増え個別的遺留分の割合が減少する。
・第三者に生前贈与することで,相続財産の金額を減少させ,遺留分侵害額を減少させる。

等という少々トリッキーといえるような方法も考えられます。

しかしながら,相続では,相続人間の長年の感情が噴出して紛糾し,それこそ「相続=争族」といわれるほどの争いになることも多いものです。

離婚,養子縁組や第三者への生前贈与については,その必要があって行われるのであれば,してはいけないというものではありません。

しかしながら,これらを相続税や遺留分対策のためだけに行うというのであれば,トリッキーな方法と言わざるを得ませんし,別の言い方をすれば「ずるい方法」であるともいえますので,対策をしたつもりで,かえって争いの種を捲く結果になりかねません。

ずるく立ち回るのではなく,相続に強い弁護士に相談し,正当な方法で遺留分対策を行ってください。

3.事業承継を検討する場合に,活用できる遺留分対策とはどのようなものでしょうか?

あなたが,非上場の株式会社のオーナーで,今後も家族で事業を継続していってほしいと考えているのであれば,事業用資産や自分が所有している株式は,事業承継をしてくれる相続人に全て取得してもらいたいと思われるはずです。

特に,株式については,非上場の中小企業の株式であっても,相続の対象となりますので,株式を相続で分割して取得されることになってしまっては,最悪の場合,事業に無関係の相続人から経営に要らぬ口出しをされるようなことになりかねず,事業の存続が危うくなる可能性もあります。

このような場合には,以下のような対策が考えられます。

  • ① 株式を相続人に有償で取得させれば,そもそも,相続財産になりませんので,遺留分の心配の必要もなくなります。
  • ② 株式を種類株式にして,議決権のない株式を事業承継しない相続人に取得させれば,経営に口を挟まれる心配がなくなります。
  • ③ 遺留分に関する民法特例を活用して,後継者がオーナーから贈与を受けた自社株について,遺留分の対象としない合意ができれば相続での自社株の分散を防ぐことができます。
    また,自社株の価格を固定する合意ができれば,自社株の評価額が上昇しても,遺留分の金額算定に影響させないことができます。
  • ④ 被相続人を契約者,保険金受取人を会社とする生命保険に加入することで,遺留分侵害額請求権を行使された場合の支払資金を会社で確保しておくことができます。

いずれの方法も,手続するためには,細かい要件を満たす必要がありますし,財務面,税務面の検討も必要となります。

会社の経営状態を確認したうえで,今後の成長可能性等も含めて検討しなければなりませんので,簡単に「こうやれば大丈夫です。」というマニュアル的な方法はありませんし,長期的な計画を立てたうえで進めていかなければならないものです。

中小企業のオーナーの方が,事業承継を視野に置いた遺留分対策を検討されているのであれば,別途お問合せください。

4.遺留分対策を検討されているのであれば,相続に強い大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイに

遺留分対策を検討するためには,相続人の人数,財産総額,相続人間の関係,今後の相続財産の増加や減少の見込み等,様々な要素を検討して適切な方法を考えていかなければなりません。

また,法律上だけでなく,税務上の問題も含めて検討しなければ,適切な方法であるとは言えません。

当事務所は,相続に強い税理士と連携しておりますので,法律,税務の両面から検討することで,よりよい遺留分対策をご提案できます。

遺留分対策を検討されているのであれば,相続に強い大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。

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