遺留分の具体的な計算方法が知りたい
遺留分が請求できることとその割合は分かったとしても,実際にいったいいくら請求できるのかという点については,何を加えたり,差し引いたりすればよいかが,なかなか分かりづらいものと思います。
ここでは,具体的な計算方法について,ご説明いたします。
1.遺留分算定のための基礎財産はどの範囲の財産が該当するのですか?
原則的には,遺留分算定のための基礎財産の計算方法は
で計算されます。
詳しくは下記のとおりです。
(1)被相続人が相続開始時に有していたプラスの財産
具体的には,現金,預貯金,不動産,株式,会員権,貸付金等の金銭債権等が該当します。可分債権等の遺産分割の対象とならないものであっても,算定の基礎となります。
なお,生活保護受給権や年金受給権のような一審専属権は相続財産には該当しません。
また,祭祀用財産(墓,仏壇仏具等)に関しては,通常の相続とは別の特別な扱いをするため対象とはならず,いずれも算定の基礎とはなりません。
(2)被相続人が相続開始前1年間に贈与した財産
相続開始前1年間の間になされた贈与に関しては,受遺者(贈与を受けた者)が相続人か第三者を問わず,全て算定の基礎となります。
被相続人死亡時から遡って1年前までの贈与となります。
ただし,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与に関しては,期限の定めなく全ての生前贈与が算定の基礎となります。
なお,「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って」というのは,遺留分を侵害することを知ってという意味であるとされ,積極的な損害を加える意思までは必要ないと考えられています。
(3)相続開始前10年間に相続人が受けた特別受益
相続法改正前は,相続人が受けた特別受益に該当する贈与に関しては全て遺留分算定の基礎となる財産とするのが,判例・実務の取り扱いでした。
そのため,何十年も前の贈与であっても,特別受益に該当する贈与であれば,遺留分算定の基礎とされることになっていました。
例えば,相続人が子ABの2名で,Aは被相続人の死亡の30年前に自宅新築の資金として1000万円の贈与を受けていたものの,被相続人の死亡時には被相続人の財産はなかったというような場合,Aの30年前の贈与も遺留分算定の基礎となり,Bは遺留分割合である4分の1,すなわち250万円の遺留分を有することになります。
しかしながら,相続時に財産が0ですので,Aは,今回は何ら相続していないにもかかわらず,Bの遺留分の行使によって,250万円をBに支払わなければならなくなり,このような結論は妥当であるとはいえません。
そこで,今回の相続法改正で,施行日である2019(令和1)年7月1日以降は,相続開始前10年間になされた贈与に限って,遺留分算定の基礎とされることになり,昔の贈与が贈与を受けた相続人に不測の損害を与えないように変更されました。
なお,遺言で特別受益の持戻しを免除する旨の記載がされていても,遺留分算定の際には基礎財産に加えられますので,注意が必要です。
また,相続開始前1年以内の贈与と同じく,「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って」行った特別受益に該当する贈与に関しては,期限の定めなく全ての生前贈与が算定の基礎となります。
(4)不当な対価をもってした有償行為
不相当な対価をもってした有償行為は,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り,当該対価を負担の価格とする負担付贈与とみなす(民法第1045条第2項)とことになります。
そのため,例えば,時価1億円の不動産を100万円で売却する等,譲渡の対価が著しく低い有償行為がなされ,その有償行為が遺留分権利者に損害を加えることを知って行われたときは,差額については贈与がなされたものとみなして,遺留分算定の基礎となります。
なお,「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って」というのは,遺留分を侵害することを知ってという意味であるとされ,積極的な損害を加える意思までは必要ないと考えられていることは,贈与,特別受益の場合と同様です。
(5)生命保険の取り扱い
生命保険は,死亡保険金の受取人が被相続人以外の第三者(相続人を含む)に指定されているものについては,受取人固有の財産とされますので,原則としては,遺留分算定の基礎となる財産には含まれません。
ただし,死亡保険金の金額や,相続財産に占める割合,その他被相続人と相続人との生活状況等を総合的に判断して,生命保険の受取人だけが異常に高額の財産を取得することになる等,著しく不公平が生じる場合には,例外的に特別受益に準じて持戻しの対象とされ,相続財産として扱われることとなり,遺留分算定の基礎となる財産に含める場合があります。
(6)被相続人の債務
被相続人の債務は全額遺留分算定の基礎となる財産として,総額から控除されることになります。
ただし,相続税や遺言執行費用,相続財産管理費用については,控除の対象とはならないとされます。
また,連帯保証債務や保証債務は,履行せざるを得ないことが確実で,かつ主債務者への求償が不可能であるような例外的な場合でなければ,控除の対象とはならないとされます。
2.遺留分算定の基礎財産の計算方法を教えてください。
(1)計算方法
遺留分算定のための基礎財産の計算方法は
遺留分算定の基礎財産=相続開始時の積極財産+贈与した財産-債務
で計算されます。
=被相続人の相続開始時の積極財産
+被相続人が相続開始前1年間に贈与した財産
+当事者双方が遺留分を侵害することを知って贈与した財産
+当事者双方が遺留分を侵害することを知って不相当な対価をもって有償処分した財産
+相続人の特別受益となる贈与のうち,被相続人の相続開始前10年間になされたもの
-被相続人の債務
という計算になります。
この計算で算定された基礎財産額に,直系尊属だけが相続人の場合には3分の1を,それ以外の場合には,2分の1を乗じた金額が総体的遺留分額となります。
そして,相対的遺留分額に各相続人の法定相続分を乗じた金額が個別的遺留分額となります。
個別的遺留分額から,相続で得た財産額と特別受益等の額を控除し,相続債務を加えた金額が遺留分侵害額となり,個別的遺留分額を上限として遺留分侵害額として認められます。
この計算でマイナスになった場合には,相続等で取得した財産額のほうが多いことになりますので,遺留分侵害は認められないことになります。
(2)具体例
前提条件として,家族構成は,被相続人A,相続人は配偶者(妻)B,子C(長男),子D(次男)とします。
そのうえで,Aの遺言があり,遺言の内容は,「全財産を妻Bに相続させる。」という内容であるとします。
父の遺産は,自宅の土地・建物が評価額3,000万円,預金が,1,000万円の定期預金が3口で合計3,000万円と生命保険は死亡保険金の受取人がB,C,D各々で1,000万円ずつあります。
生前贈与として,Cが自宅を購入する際の資金として5年前に2,000万円を,Dには老後の面倒を見てくれたことへのお礼として死亡する直前に200万円を各々渡しています。
また,Cには,12年前に当時査定額1100万円の外車を,BとDには内緒で,100万円で売却したことにしています。
債務は,自宅の改装費のローンが1,000万円残っています。
この事例において,遺留分を計算してみます。
① 積極財産の合計
まず,積極財産の合計は,3,000万円の自宅,定期預金3口合計3,000万円の合計6,000万円となります。
生命保険に関しては,死亡保険金の受取人がB,C,Dと各々指定されていますので,相続財産には当たらず,遺留分算定の基礎財産には含まれません。
なお,相続税の計算の際には,「みなし相続財産」として(500万円×法定相続人の数)を控除した金額については,相続財産に含めなければならないことには注意が必要です。
② 生前贈与の加算
生前贈与に関しては,相続人以外への贈与については死亡前1年間のものが,相続人に対しての贈与に関しては,特別受益に該当すると考えられる贈与については死亡前10年間のものが計算に含まれます。
この場合には,Cへの2,000万円の贈与は特別受益に該当し基礎財産に含まれますが,Dへの200万円はお礼としての贈与であり特別受益には該当しませんので基礎財産には含まれません。
③ 不相当な対価をもってした有償行為の処理
Cへ1,100万円の外車を100万円で売却したことについては,有償行為の時期を問わず差額1,000万円の贈与とみなすことになり,基礎財産に含まれます。
④ 債務の控除
父には自宅の改装の際のローンが1,000万円残っていますので,これは基礎財産から控除します。
⑤ 具体的な計算
6,000万円(積極財産額)+2,000万円(生前贈与の加算)+1,000万円(不相当な対価をもってした有償行為の加算)-1,000万円(債務の控除)=8,000万円(遺留分算定基礎財産)
この場合の総体的遺留分額は8,000万円×2分の1=4,000万円となり,個別的遺留分額は,Bは4,000万円×4分の1=1,000万円,C,Dは4,000万円×8分の1=各々500万円となります。
遺言で妻Bが全額相続することになりますので,長男C,次男Dが遺留分を侵害されているかを計算することになります。
長男Cは,生前贈与等の額は3,000万円ですので,遺留分を侵害されていることにはなりません。
次男Dは,生前贈与等の額は200万円ですので,500万円-200万円=遺留分を300万円侵害されていることになりますので,300万円については,母に遺留分侵害額請求をすることができるということになります。
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遺留分侵害額の計算は,簡単ではありません。
相続人に対する贈与に関しては,特別受益に該当するかどうかが争いになる場合もありますので,本記事の具体例で挙げたように簡単に判断できるものばかりではありません。
相続に強い弁護士であっても,慎重に検討して計算していくことになりますので,一般の方が自分で計算するのは非常に大変なことになるものと言わざるを得ません。
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